君は戦略を立てることができるか(音部大輔 著)を読んで

5.0
書籍紹介
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概要

戦略立案に関する解説書になります。シリーズで刊行されている書籍で私も第1弾から今回までずっと読んでいます。

今回の書籍では目的と資源という2つの観点から戦略を捉え、不確実な状況下での成功確率を高める方法を提示しています。具体的には、目的の明確化と再解釈、資源の探索と活用、そして戦略の実行と組織への展開について、豊富な事例と実践的なアプローチを解説している。特に、資源の制約下にある状況でも、資源の再解釈と有効活用によって戦略的優位性を築く方法に焦点を当てている。 最後に、戦略の組織内浸透を促進するための具体的な手法も提案している。

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目的の明確化と再解釈について

目的の明確化

戦略を立てる上で、まず目的を明確にすることが重要。これは、関係者全員が共通の認識を持つために必要不可欠。目的が曖昧なままだと、達成度合いを判断することも困難になるため。

目的を記述する際には、以下の2点に注意する必要。

  • 達成したい状況や成功の状態を正確に記述する。
  • その成功が関係者全員に共通の理解として伝わるよう工夫する。

目的が明確でない場合は、以下の方法で明確化できる。

  • 「ある場合、ない場合」を考える:プロジェクトやブランド、施策などがある場合とない場合を比較することで、その目的が見えてくる。例えば、サンプリングを行う場合、「このサンプリングがある場合とない場合」を考えると、新規購入者数の増加、リピート率の改善など、具体的な目的が明確になる。
  • 現状から目的を見通す:3C分析 (顧客、競合、自社) を用いて、現状を分析することで目的を明確化する方法。特に対象となるターゲット消費者と提供するベネフィットの2つが重要。
  • 指示者へ確認する:目的が曖昧なまま活動だけを指示された場合は、指示者へ確認することが重要。プロフェッショナルとして期待を超える成果を出すためには、目的を明確にする必要がある。

目的の再解釈

目的が明確になったら、次は 目的を再解釈 するプロセスに進みます。これは、様々な角度から目的達成のための具体的な戦略案を見出すために重要。再解釈には、OAT (目的明確化表) というツールが役立つ。OATを用いることで、目的を以下の3つの段階で分解・再解釈できる。

  1. 大目的:最終的に組織が目指すもの (営利組織であれば収益性の改善)。
  2. 目的:大目的を達成するための具体的な目標 (例:数量の増加、利益率の改善)。
  3. 解釈:目的を達成するための具体的な方法 (例:顧客獲得、リピート率向上)。
    • 例えば、「収益性の改善」という大目的を「数量を増加」という目的で達成しようと考えた場合、「新規顧客の獲得」「既存顧客の購入量の増加」など、様々な解釈が考えらる。

目的の再解釈を行うことで、資源の有効活用や競合との差別化などの観点から、より効果的な戦略を策定することができる。

目的の明確化と再解釈は、戦略策定の最初のステップであり、その後の戦略策定プロセス全体に大きな影響を与える。関係者全員が目的を共有し、多角的な視点から目的を再解釈することで、より効果的かつ実行可能な戦略を策定することができる。

資源の探索と活用について

資源の探索

  • 資源は、企業内部のものだけでなく、外部環境も含めて多角的に検討する必要がある。
    • ヒト:人材はすべての資源に対して「係数」として機能する。人材の能力次第で、モノやカネといった有限な資源の効用を何倍にも拡大することができる。 優秀な人材は、資源の効用を大きく向上させる可能性を秘めている。
    • モノ:製品やサービス、設備、技術など、企業が保有する資産。
    • カネ:財務的な資源。資金調達能力、投資余力なども含まれる。
    • 情報:市場データ、顧客情報、競合情報など、企業活動に必要な情報。
    • 時間:時間も重要な資源です。時間制限を意識することで、より効率的な戦略策定が可能になる。
    • ブランド:ブランド名は名詞であり、固有名詞として特別な意味を持つ。ベネフィットがターゲットに認識され、使用して実感されるほど、より強い「意味」として認識される。このブランドの「意味」も重要な資源となる。
    • 広告・施策や製品など:ターゲット消費者にベネフィットを届ける手段として、4P (製品、価格、流通、広告・施策) が挙げられます。これら4Pも資源として捉えることができる。
    • 外部資源:広告会社、メディア、取引先、コラボレーションパートナー、KOL (Key Opinion Leader) など、社外・組織外の資源も活用できる。

資源の多寡に寄与するもの

新しい資源を見出すためには、多様な視点 を持つことが重要です。

  • 固定観念を捨てる:あたりまえと思っていることや、業界の常識にとらわれず、自由な発想で資源を探してみる。
  • 異質な意見に耳を傾ける:自分とは異なる立場や考え方を持つ人の意見を積極的に聞き、新たな視点を取り入れることが重要。
  • 視点を変える技術を活用する:時間軸、空間軸、立場、サイズ、温度など、様々なフィルターを通して物事を見ることで、新たな資源を発見できる可能性があります。
  • 他者の思考パターンをコピーする:上司や同僚、競合など、優れた戦略を実行している人たちの思考パターンを分析し、参考にすることも有効。

資源の活用

資源を探索したら、次はそれをどのように活用して資源優勢 を確立するかを検討します。

  • 目的との関連性を評価する:探索した資源が、設定した目的に対してどの程度貢献できるかを評価する。
  • 資源の量と質を比較検討する:競合と比較して、自社がどの資源において優位性を持っているかを分析します。
  • 資源の組み合わせを考える:複数の資源を効果的に組み合わせることで、相乗効果を生み出すことができます。
  • 状況変化に柔軟に対応する:市場環境や競合の動きなどを常に把握し、必要に応じて資源の配分を見直すことが重要です。

資源の探索と活用における注意点

  • 網羅性の罠:あらゆる要素を網羅しようとすると、思考力が分散し、重要なポイントを見落とす可能性があります。目的と資源に集中し、影響を与えそうな要素だけを取り上げるようにする。
  • 熱中への注意:目的を忘れて目の前の活動に熱中してしまうことは避けなければならない。定期的に目的を振り返り、活動が目的達成に貢献しているかを確認することが重要。

戦略の実行と組織への展開について

戦略を策定したら、次はそれを実行に移し、組織全体に展開していくプロセスが必要。 これは、策定した戦略が絵に描いた餅で終わらせず、実際に成果に結びつけるために不可欠なプロセスである。

戦略の実行

  • 明確な行動計画:戦略を具体的な行動計画に落とし込み、誰が、いつまでに、何を行うのかを明確にする必要がある。
  • 責任と権限の明確化:各メンバーの役割と責任を明確にし、権限を委譲することで、迅速かつ効率的な意思決定を可能にする。
  • 進捗管理と評価:定期的に進捗状況を把握し、必要に応じて計画を修正することが重要。また、戦略の実行結果を評価し、次の戦略策定に活かす。
  • 柔軟性:市場環境や競合の動きは常に変化するため、状況に合わせて戦略を柔軟に見直すことが重要。

組織への展開

戦略を組織全体に展開するには、メンバーが戦略を「自分ごと化」する ことが重要。自分ごと化を促すには、以下の3つの方法が有効である。

  • 役割を与える:各メンバーが戦略においてどのような役割を担うのかを明確にすることで、当事意識を高めることができる。上司から指示するだけでなく、メンバー自身に考えさせる時間を設けることも有効。
  • ストーリーで伝える:戦略の背景や目的をストーリー形式で伝えることで、メンバーの共感を得やすくなる。抽象的な概念よりも、具体的なエピソードや事例を用いる方が効果的。
  • 参加させる:戦略策定や展開のプロセスにメンバーを参加させることで、当事意識や責任感を高めることができます。 意見交換会やワークショップなどを開催し、メンバーからの意見を積極的に聞き取りをする。

戦略と実行の関係

戦略と実行は、車の両輪のような関係。 どんなに優れた戦略を策定しても、実行が伴わなければ成果には繋がらない。逆もまた然りで、優れた実行力があっても、進む方向が間違っていれば、目標地点にはたどり着けない。

  • 戦略重視:戦略を重視する考え方は、優れた戦略があれば、たとえ実行がダメでも、修正のチャンスがある。
  • 実行重視:実行を重視する考え方は、ダメな戦略でも、良い実行ができれば、ある程度の成果は得られる。
  • 重要なのは、戦略と実行のバランスを取ること。戦略策定と実行は相互に影響し合うため、常に両方の視点を持って取り組む必要がある。

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最後に

広告業界に入り20年目になりますが、その中での自分の成長過程で学んできたことの確認をすることができました。現在の能力だとできていない点もあるので、その再確認をすることができました。

共感ポイントはいくつもあるのですが1つ挙げるとすれば「状況変化に柔軟に対応する」という点はやはり大事だと感じています。私の好きな言葉の1つに「適者生存」という言葉があるのですが、最終的に勝ち残るのは強い者(企業)ではなく、環境に適応できた者(企業)であるということと同義だと考えています。

マーケティングに携わる人は一読の価値がある書籍です。

著者・監修者

広告運用歴20年。小規模〜大規模アカウントまで幅広く経験。これまで30種以上の業種・100以上のアカウントに携わり、多くのアカウントの目標達成、広告パフォーマンス改善を実現。元Google広告トップコントリビューター。GoogleやAmazonに招待され渡米経験あり。書籍「なぜ、あなたのウェブには戦略がないのか?」「Amazon広告打ち手大全」。社会構想大学院大学 広報・情報学修士(専門職)

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